はじめに

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時代は変わっている

「日本人に生まれたってことだけで豊かな生活を享受できる、そんな幸運は私の世代までだよ。」

娘によく、そんな話をしてきました。何か迷ったとき、娘はよく私に相談してきます。時には、私の方から話を振ることもありました。娘が人生の大きな岐路に立った時、例えば進学や就職、海外留学を考えていた時がそうです。

そんな話の中で、私の根底にある認識が冒頭に述べたことです。そう、私の若かりし頃から時代は大きく変わっているのです。これは日本がこれまでのように豊かではなくなってきた、ということだけはありません。なにが、どう変わってきているのか。娘に話してきたように、ここでも話をさせてください。

とその前に前提を一つ。「豊かな生活」とは、もちろん物質的な側面からのことです。精神性といいますか、心の在り様に基づく「豊かな生活」を楽しめるか、それはいつの時代も人それぞれです。ただ、物質的な豊かさは心に余裕を与えることも事実、両者が決して無関係ではないことも心に留めてくださいね。

人間活動の幅の広がり

世界は多くの国(と地域)で構成されています。それぞれの国には主権というものがあって、その国の中のことはその国で決めるということになっています。もちろん例外はありますし、主権が侵害されることも多々あります。

様々な人間活動、ここでは経済活動を中心に考えましょう。こうした活動はつい最近までは(とはいっても数百年以上は以前のことですが)、一国の中で完結することが基本でした。というか、一国の中の一つの地域、さらに一つの村の中で閉じていることが殆どであったと思います。

時代が下り、技術が発展し、人間活動の幅は広がっていきます。生産したものはそれが農産品であれ工業製品であれ、生産地から遠く離れた地に運ばれ、そこで販売されるようになりました。もちろん、その前提には技術の進歩があります。

技術の進歩により大量生産が容易となり、大量に生産された商品を売るための市場が求められるようになります。そうしたニーズに応えるかのごとく、技術の進歩により大量輸送も容易となりました。その結果、遠く離れた市場に大量生産された商品を運ぶことが可能となったわけです。

産業革命が変革の契機に

大量生産、大量輸送を可能とした技術革新、それは産業革命でした。産業革命によって導入された新たな動力、石炭を燃料源とする蒸気の力ですが、これが世界を大きく変えていったわけです。技術はその後も進化を続け、燃料源は石油、天然ガス、原子力へと多様化が進みました。

動力それ自体も進化を続けています。蒸気の利用は現在も続いていますが、その形態は非常に効率の高いタービンに置き換わっています。内燃機関の進化も目覚ましいものがあります。加えて電力が動力源として幅広く利用されるようになり、発電技術も化石燃料の利用から原子力、さらには太陽電池や風力発電の導入など、長足の進化を遂げています。

こうした技術革新とその成果の社会への導入は、産業革命が一つの大きな契機ではありましたが、その後も絶えることなく続いています。技術革新と成果の普及の速度は、時代が下るに従って加速度的に上昇し、我々の生活に与える影響も加速度的に大きくなっています。

もちろん、技術革新だけが変革の要因ではありません。商品の自由な移動を促進するような社会の制度的変化は、世界規模での市場の拡大に決定的に重要な役割を果たしました。純技術的要因と社会の制度的要因、この二つの要因は絡み合いながらも互いの進化を促し、現在に至っています。

「モノ」の越境移動は増大

技術と制度の進化を背景に実現されてきた大量生産と大量輸送、これらがもたらした変化は非常に大きく、また多様です。それらの中で、私は商品の越境移動に着目したいのです。大量に生産された商品は国の境界を跨いで輸送され、他国の市場で販売されます。

その結果、当然のことですが商品の国を跨いだ輸送、すなわち「モノ」の越境移動を増大させます。図表1は第二次世界大戦後の世界の商品輸出額の推移を示したグラフです。最近の20~30年で急激に増加したように見えますが、そんなことはありません。

図表1世界の商品輸出額推移
出典: WTO STATS

同じデータを用い、縦軸を対数表記で書き直したグラフが図表2です。対数グラフでは傾きは伸び率を表します。対数グラフ上で直線が描かれた場合には、伸び率が一定というわけです。この対数グラフからは、第二次世界大戦後今日に至る約80年の間ほぼ一貫した伸び率で「モノ」の越境移動が増大してきたことがわかります。

【図表2】世界の商品輸出額推移(対数目盛)
出典: WTO STATS

2008年頃からは、グラフの傾きがやや落ちてきたように見て取れます。何か構造的な変化が起きているのか、それとも様々な経済事象の発生に起因する「振れ」なのか。現段階では、私には判断できません。

1948年以前のデータは見つかりませんでした。データが無い中での私の想定ですが(いいデータがあれば是非教えてください)、戦争や恐慌などの大きなイベントに起因した振れはあれど、産業革命以降今日に至るまでほぼ一貫して「モノ」の越境移動は増大してきたはずと考えています。

越境移動の増大がもたらしたもの

越境移動という視点からモノに着目して考えます。モノの越境移動の増大は様々な影響を我々にもたらしました。その全てをここで網羅的に話すことはしませんし、できません。冒頭の問題意識、「豊かな生活」の享受に絞って考えてみましょう。

国境を越えて商品が移動し、他国の市場で販売される。これは輸出ですね。大量輸送が可能になったとはいえ、遠く離れた国に運ぶわけですから運賃は相応にかかり、その分他国市場での価格は上昇します。それでも売れるわけですから、その商品は他国市場において競争力を持ち、生産者に利益をもたらします。

これは、輸入国において同様・類似の商品を生産していた企業が、輸出元の国の企業と競争し、劣勢になったということを意味します。モノが国境を越えて移動するということは、それを生産している企業が別の国の企業と競わざるを得なくなることを意味します。

競争に敗れた輸入元の企業は自国でより競争力を持てる商品の生産に移行することが求められる。こうした競争を通した生産性の向上により経済は発展し、世界全体としてはより豊かになる。これが経済学の教えであり、実際このようにして世界経済は伸長してきました。

新たな衝撃 – 「情報」の越境移動

かつて「モノ」の大量生産、大量輸送、その結果としての越境移動の増大が起きたように、現在「情報」の大量生産、大量越境移動が起きています。

モノの大量輸送に利用される船舶や自動車、航空機に相当する「情報」の移動に利用される国際通信設備容量の推移を図表3に示します。相応の期間の推移を示すデータをなかなか見つけられなかったため、データの一部は私の推計です。

【図表3】国際通信設備容量推移
international_bandwidth_usage
出典: International bandwidth usage, DataHub, ITUのデータを基に一部推計

上記のグラフは情報の移動経路の容量ですが、実際にその経路を伝わって移動した情報の量はいかほどなのか。その推移を図表4に示します。これもまたいいデータを見つけられなかったため、データの一部は私の推計です。

【図表4】世界IP通信量推移
出典: Cisco, “Visual Networking Index”及び”Cisco Visual Networking Index:Forecast and Trends, 2017–2022″のデータを基に一部推計、ただし両文書とも現時点でCiscoのホームページへの掲載はなし

こうしたデータを包括的、網羅的に提供する権威ある機関はありません(少なくとも私には見出せていません)。そもそも、全世界をカバーして正確なデータを取得することなど、ほぼ不可能ではないかとも思えます。まあ、大まかな傾向はこんなもんだ、といった感覚で捉えてください。

爆発的な成長のスピード

正確な現状が掴めない中でも私が強調したいことは、その爆発的ともいえる成長のスピードです。これまで見てきた世界の商品輸出額、国際通信設備容量、そして世界IP通信量、この三つの量がそれぞれ大きく伸びてきたことは、それぞれの推移を表すグラフで示した通りです。

では、それぞれの量の伸びに違いはあるのか。変化のスピードの違いを理解するために、それぞれの2000年の値を100として指数化を行い、その変化を同じグラフ上にプロットしたものが図表5です。変化のスピードに非常に大きな違いがあることが容易にわかります。

【図表5】商品輸出額、国際通信設備容量及びIP通信量推移(2000年=100)
three_items_comparison
出典: WTO、ITU、Ciscoの資料を基に一部推計

この違いをより明確に示すため、縦軸を対数表記で書き直したグラフを図表6に示します。対数グラフでは傾きが伸び率を表しますから、通信設備容量とIP通信量が近年では同様の伸び率で推移していることがわかります。そしてその伸び率は、商品輸出額のそれと比べて遥かに大きいこと理解できるでしょう。

【図表6】商品輸出額、国際通信設備容量及びIP通信量推移(2000年=100、対数目盛
three_items_comparison_logarithm
出典: WTO、ITU、Ciscoの資料を基に一部推計

デジタルサービスの貿易が典型例

そう、情報の大量生産とその越境移動がものすごい勢いで進んでいる、これが今現在という時代なのです。このことがこの世界に、一体どのような影響をもたらすのでしょうか。

モノの越境移動、すなわち輸出は「輸入国において同様・類似の商品を生産していた企業が、輸出元の国の企業と競争し、劣勢になった」ことを意味する旨を述べました。情報の越境移動に関しても基本は全く同様と考えます。

最も分かり易い事例が日本のデジタル赤字といわれる問題です。これは、国際収支統計における「デジタル関連サービス」の支払額が、受取額を上回ることで生じる赤字のことです。モノの貿易に見立てて説明すれば、典型的なデジタル関連サービス(クラウドサービス、ソフトウェア、web広告の利用などですね)の輸入額が輸出額を上回った場合に発生する貿易赤字に相当します。

日本のデジタル赤字の推移を図表7に示します。2024年の日本のデジタル赤字は約6.7兆円、日本ではこれだけの額のデジタル関連サービスが差し引きで輸入されているわけです。

【図表7】デジタル関連国際収支赤字額(デジタル赤字)推移
digital_deficit
出典: AMコンサルティング 「Mini Report: 日本のデジタル赤字の時系列推移 2023-05-19」及び内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 「基礎資料・論点案 令和7年6月30日」を基に推計

「情報」の越境移動増加の影響

日本におけるデジタル赤字の増大は、全世界的な「情報」の越境移動の爆発的な増大がもたらす一側面です。日本の国際収支という観点からは富の国外への流出であり、産業や企業の競争力という観点からは外国企業に日本市場で競り負けていることを意味します。

であるから問題であるという声も挙がっていますが、この場でそうしたことを議論したいわけではありません。爆発的な「情報」の越境移動が増加していることを分かり易く理解していただくための一つの事例として、日本のデジタル赤字に触れました。

ここでは日本や赤字という視点ではなく、現在を生きる我々個人に対し「情報」の越境移動が爆発的に増大するこの世界がどのような影響を与えるのか、この点を考えてみたいのです。なぜなら「情報」の越境移動をめぐるこのような変化は、「日本人に生まれたってことだけで豊かな生活を享受できる」ことを難しくすることに大きく影響を与えるからです。

多くの産業の背景にある情報処理

デジタル赤字を構成する要素として一般にいわれているのは、図表7に示したようにコンピュータサービス、専門・経営コンサル、著作権等使用料です。これらはデジタル関連サービスと呼ばれますが、それはサービスの内容が情報の処理や提供という行為でほぼ完結しているから、というのが私の理解です。

もう少し範囲を広げ、企業活動や個人の様々な営みを考えてみましょう。その中でもデジタル関連サービスの提供とは対極の、例えば物品や人を輸送する事業を想定します。運送会社や航空会社がこうした事業の実施者ですよね。荷物を積みトラックを運転し客先に届ける、乗客を乗せて飛行機を飛ばす。まさに物理的な「モノ(若しくはモノとしてのヒト)」を扱う事業です。

モノを扱うこれらの事業であっても、その現場では非常に多くの情報処理がなされています。自分が頼んだ荷物の配送状況をリアルタイムで追う、飛行機の座席を予約して決済する。今時ではこれらのことがweb上で実現します。すなわちこれらのことは情報の処理と提供という行為だけで完結しているわけです。

モノの生産現場である工場において相当の情報処理がなされていることはは想像に難くないでしょう。スーパーなどの流通産業の内実は情報処理の塊です。そもそも企業のバックオフィス業務(典型例が財務や経理です)は基本情報処理です。医療も外科手術のような人体への侵襲的行為を除き、その行為の多くは情報処理です(内科医による問診と診断、薬の処方を考えてみてください)。

高まる産業の「情報化度」

今、産業(若しくは事業)の「情報化度」という概念を考えます。産業や産業を形作る事業の価値創出の源泉を見定め、その源泉の本質に情報処理的な行為が占める比率と定義します。あくまで概念です。客観的な指標に基づいて情報化度を算出することは難しいのですが、その産業の事業としての本質は何かを評価する考え方として理解してください。

当然のことかがら、デジタル関連サービスの提供は情報化度が極めて高い産業といえます。

モノ以外にも越境移動という視点から外せない対象として、「金(GoldではなくMoneyです)」と「ヒト」が挙げられます。これらの国境を超える移動は、社会や経済に対してとても大きな影響を与えると考えられるからです。

まずお金の国境を跨ぐ移動です。これをデータで追ってみたのですが、追いきれないことを理解せざるを得ませんでした(少なくとも私には)。銀行間の送金や信用供与、ノンバンクによるもの、そのための多くの海外事業者、web上のtransaction、これらのことを網羅的にカバーする統計などありません(見つけられません)。

網羅的でなくともいい、凡その傾向を知ろうと各種データを漁りました。そうした中で、信頼性が高い統計データとして国際決済銀行(BIS: Bank for International Settlements)

これは非常に大変に難しい、ということを調べていくうちに理解させられました。

世界の移民人口推移
出典: International Migrant Stock, United Nations

お金を働かせて稼ぐ、この最も一般的な形態はお金の運用です。運用の方法は様々にあるでしょう。銀行に預金し利息を得る。株を購入して配当を得る、または値上がり益を狙う。これらがお金の運用の典型事例としてイメージされると思います。

どんな運用をするにしても、ますは働かせるお金の存在が必要です。最初の運用資金ですね。このお金は、生まれながらのお金持ちや遺産が入ったというような特別な人を除けば、自分が働いて稼ぐしかありません。

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でも、自分で働いて稼ぐために必要なほどには時間をかけたくない、というかかけられない。なぜなら、そもそもお金を稼ぐために自分で働いているからです。そんな普通の人を前提に、どうやってお金を働かせて稼ぐか。

これがこのサイトのテーマです。

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お金を働かせて稼ぐ、それもあまり多くの時間をかけずに。これを実現するために調べた内容や気付きの点をブログ形式で投稿として載せる、これが本サイトの基本的な構成です。

載せている内容は、多分に私の経験に基づいています。ただ、記された内容全てが実際に経験したことの結果というわけではありません。これから試してみようと思い、自分にとっての備忘録として記したものも含まれます。

投稿は計画性をもって時系列的にアップしているわけではありません。何かを思いついた時、その内容を忘れないようにと記す場合もあれば(まさに備忘録ですね)、書くことで内容を整理したいと思って記す場合もあります。ですから、それぞれの投稿は順不同です。

このため、同じカテゴリーに属する投稿を束ねるストーリーがあるわけではありません。一方で、特定のテーマについて投稿の内容を整理し、一個のストーリーとしてまとめたページも作っています(投稿以外のページがそうです)。

こうしたページを順を追って読んでいただくことで、そのテーマに対する私なりの理解を示そうとしました(分かり易い内容になっているかは、甚だ自信のないところです)。ただその内容は投稿をベースにしたもの、投稿内容とのダブりが多々あります。その点はご容赦を。

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